窪田助教研究レポート2015年12月号

ICRの国際テニュアトラック助教である窪田悠介助教の2015年12月の研究状況をご紹介いたします。

 米国オハイオ州立大学言語学科で、派遣先での受入教官であるRobert Levine教授とともに、自然言語の統語論と意味論の理論を構築するプロジェクトを進めています。具体的には、範疇文法(categorial grammar)と呼ばれる言語理論を用いて英語や日本語などの自然言語の文法現象の詳細な分析を行っています。範疇文法は、現在まで主に数学や論理学の分野で研究されてきましたが、我々の提案している理論の最大の特徴は、理論言語学における主要な研究成果をほぼそのままの形で組み込める点にあります。これにより、理論言語学者にとって魅力的な計算言語学へのアプローチ、また逆に、計算言語学者にとって魅力的な理論言語学へのアプローチを提案することができると考えられます。現在はまだ、理論の基盤の整備を行っているところですが、将来的には、計算言語学、理論言語学両分野の研究交流の(再)活性化を推し進めるための分野横断的な研究プロジェクトを展開していきたいと考えています。

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今年は、夏から秋にかけていくつか重要なイベントを開催しました。

– 7月: LSA Summer Institute (シカゴ)で、Levine教授と共同で、言語学者向けの  範疇文法の入門的レクチャー「Empirical Applications of Type-Logical Categorial Grammar」を行いました。
  (http://www.u.tsukuba.ac.jp/~kubota.yusuke.fn/lsa/lsa-institute2015.html)

– 8月: 27th European Summer School in Logic, Language and Information (バルセロナ)で、ワークショップ「Empirical Advances in Categorial Grammar」を開催しました。
  (http://www.u.tsukuba.ac.jp/~kubota.yusuke.fn/cg2015.html)

– 10月: 派遣先オハイオ州立大学において、ワークショップ「Dynamic Semantics: Modern Type Theoretic and Category Theoretic Approaches」を開催しました。
(http://icrhs.tsukuba.ac.jp/archives/2558/)

Levine教授は私がオハイオ州立大学の博士課程学生だったときの指導教官の一人であり、共同研究は博論を書き上げた2010年頃より継続的に行っています。この時期に開始し、筑波大学の国際テニュアトラック教員として採用されてから引き続き行っていた研究に関するLevine教授との共著論文が、今年いくつか学術誌に正式に受理・掲載されました。詳細は、以下の個人ページと、COTREの業績一覧をご覧ください。
http://www.u.tsukuba.ac.jp/~kubota.yusuke.fn/
http://ura.sec.tsukuba.ac.jp/archives/4127

Levine教授との研究は、提案している文法理論の骨子を固める作業と、これを用いた様々な言語現象の分析が一段落したところなので、来年以降、研究成果を学術書にまとめることに取り組む予定です。

 この他に、以下の催し・活動を行いました。

– 4月: オハイオ州立大学にて、Chris Barker教授講演会
  (http://icrhs.tsukuba.ac.jp/archives/1872/)

– 5月: William大学で講演「Grammar, logic, and computation」
  (http://icrhs.tsukuba.ac.jp/archives/1915/)

また、日本の形式意味論研究の国際的な競争力を高めることを後押しするプロジェクトも進めていきたいと考えています。今年は、その手始めとして、注目すべき研究を行っている国内の若手世代の研究者の方々を講師に招いて、3月と11月に筑波大学の東京キャンパスでICRセミナーを開催しました。
http://icrhs.tsukuba.ac.jp/archives/1809/
http://icrhs.tsukuba.ac.jp/archives/3005/

こちらのプロジェクトは、特に、来年以降日本に帰国してから、主要な学会でワークショップを企画するなどの活動を通して、より一層重点的に取り組んでいきたいと考えています。